歴史

  • 麹の製造は穀物に自然に生えてくるカビを利用した「自然種付け法」、そして、偶然に出来のよかった麹を保存しておき、それを次の種として使用する、「友種法」と移っていったものと考えられます。 当然の事ですが、この友種法は大変品質的に不安定であり、麹の種としては良好なものではありませんでした。 室町時代に入り、麹に木灰を混ぜて培養したものを麹造りに利用すると、失敗が少ないことが発見され現在の種麹の基礎が築かれました。 木灰を種麹造りに使用する科学的根拠は、近年の研究により、細菌や麹菌以外のカビの生育を抑え、さらに麹菌の胞子の耐久性を向上させるためであることがわかっています。 この木灰の効果については、東京農業大学小泉武夫名誉教授の大変興味深い実験があるので紹介します。

    米がゆを室内に放置すると3日ほどで、赤青白黒黄などのいろいろなカビが生育してきます。 このカビの部分をとりわけ、くぬぎを焼いてつくった木灰を薄くふりかけ、毎日、その表面を少しづつ採取し乾燥しておきます。 この操作を12日間続け、12の試料を作製します。この12の乾燥した試料をそれぞれ別々に蒸米にまいて、麹をつくりました。 1~3日目までの試料でつくった麹は、毛カビや赤カビ、青かびが混在して、麹菌はほとんど見あたりませんでしたが、徐々に麹菌が目立つようになり、10日目からは麹菌のみがみられるようになりました。 すなわち、木灰に強い麹菌のみが生き残り、それ以外のカビは淘汰されてしまったのです。

    このように麹製造時に木灰を使用することは麹菌の分離方法としては大変優れたものでした。 しかし、この方法は秘伝とされ、また、種麹製造が「麹座」の座員のみに許可されていたこともあり、200~300年ほど前までは、種麹を製造しているのは、当社と他1軒(共に京都)の2軒のみでした。